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「まだ外に出るには早い。それに、君が望むなら今日は一日、側にいてやってもいいぞ?」
甘えるゼアンに、甘やかすルスタの誘い。それが嬉しいけれど、素直に喜ぶことは出来ない。
そんなのは無理なのだから。
だから、意識していつも通り、捻くれた返しをする。
「嬉しい誘いですけどね、きっとあなたは忙しくなって、出掛けていきますよ。残されるくらいなら、出て行きます」
「疲れているなら、泊まればいい。出掛けても、すぐに戻ってくる」
「次の国王が、仕事よりも恋人を取ってはいけませんよ」
ぴくり、とルスタが反応するのがわかった。
次の国王はまだ、誰か決まっていない。けれど、ゼアンにはもう確信がある。次、リンダル王国の王になるのはルスタだ。
そして、玉座に座る彼の側に、ゼアンはいられない。
王になったら、ルスタはもう、ゼアンの秘密の恋人ではなくなるのだ。
ルスタが何か言い出す前に、ゼアンは体を離した。ゼアンの顔を見たルスタが、目を丸くする。
「ゼアン……?」
「あなたにお伝えすることがあります。俺の家に、あなた宛ての手紙を用意しました。顔を突き合わせて語るには、覚悟が足りなくて、そんなことをしました。だから、あとで読んでください。きっと、あなたの力になりますから」
「どういうことだ? ゼアン、君は何を……」
「俺が恋人のために出来る、精一杯のことを残しました。どうか、それを使ってください。俺のために……、あなたのために」
「使うとは、どういうことだ? 君は何を考えている?」
ルスタが肩を掴んでくる。その手をそっと外して、ゼアンは怒られるとわかっていながら、笑みを作った。そうしないと、泣き顔になる。涙は流れても、ルスタのために笑いたい。
笑って、大丈夫だと言いたいのだ。
足元をふらつかせながら、ゼアンは上着を取った。そこに隠していた短剣を握り、振り返る。
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