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状況が読めていないルスタに近づき、ドンッと思いっきり突き飛ばした。ろくに抵抗もせず、ルスタはよろめき、後ろの本棚に頭をぶつけて尻餅をついた。けれど痛がるそぶりも見せず、呆然としてゼアンを見上げる。
「君は……」
「すみません、ルスタ様」
ゼアンは本棚へ手を伸ばした。前にルスタがウーゴを呼んだとき、取り出していた本。それを引き出すと、遠くで鈴が鳴る音がする。
すぐにウーゴがやってくるだろう。ゼアンは短剣の鞘を抜き、ルスタの上に覆い被さる。
微動だにしないルスタの頬に手を当てて、最後の名残でキスをした。
「俺は、ルスタ様のことが好きでした」
だから、裏切ってしまって申し訳ない。
慌ただしい足音が聞こえる。「待て」と焦る声がする。だけど、どれもゼアンを制止することは出来なかった。
短剣を振り上げた。
「ルスタ様!」
同時に、部屋のドアが開き、ウーゴがそれを目撃する。
ゼアンがルスタに襲い掛かろうとしている姿を。
「貴様……!」
「待て、斬るな!」
カッと血が上ったウーゴにルスタの声は届かなかった。以前、ゼアンを間者と疑って斬りかかろうとしたウーゴだ。現場を目撃すれば、きっと見逃しはしない。ルスタが止めようとも、聞く耳を持たないだろう。
ゼアンは短剣を振り下ろし、毒が誰にもかからないよう、机に突き立てた。
その瞬間、背中を深く斬りかかられる。
「ゼアン!」
目の前で悲愴な顔をしているルスタへ、ゼアンは倒れ込んだ。
これでいい。
これであなたは、守られた。
ゼアンの意識は途切れる――
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