五 愛する人

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 ジュード家の屋敷には、ほとんど物が残っていなかった。すべてを売ってしまったのか、最低限の家財道具に家族の肖像画が一枚だけ。その絵が飾られていたのは、ゼアンの私室だった。唯一、生活していた痕跡がある部屋だったが、そこも殺風景なものだった。机と椅子、そして空っぽの棚があるだけである。重い物など、どこにも置いていなかった。  ルスタはかつての家主が座っていたであろう椅子に腰をかけ、ウーゴが持ってきた手紙を開いた。ゼアンは手紙を書いたと言ったが、それは二通、用意されていた。  しかし、屋敷の中にあったのは一通だけ。始めはそれしかないものだと思っていたが、優秀な付き人は庭のゴミ箱に捨てられていたもう一通の手紙を見つけてきた。  ゼアンが残した手紙と捨てた手紙。  その二通を前にして、ルスタはまず、彼が残そうとしたものを開く。 『親愛なるルスタ様  このような形で手紙を残すことになると思わず、ちょっと気恥ずかしいです。どうせなら面と向かって言えとあなたは怒りそうですが、上手く説明できそうにないんで、手紙として残します。  手紙を書こうと思ったキッカケは、先ほど、グラエム・シャハルからルスタ・ハーリスを殺害するよう命じられたからです。私はあなたにお会いする以前から、グラエム・シャハルと面識がありました。彼から依頼を受け、ルスタ様の弱みを掴むために裏華苑へ向かったのです。  だから、初めてお会いした日、あとをつけた理由はあなたが裏華苑に通っていることを確認するためでした。  貴族が裏華苑に行っていたら、民衆からの支持は失います。あなたにとってそれは、大きな痛手となるはずでした。  あなたが裏華苑に通っているとバレた日、実は私がグラエム・シャハルが用意したサクラに連絡を飛ばしたのが原因です。宵橋を出たところで、ルスタ様が民衆に見つかるのは仕組まれたことでした。  しかし、あなたは上手い言い訳を用意していました。グラエムの企みは潰され、私は叱責を受けました。
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