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こんなお詫びの仕方では、あなたは怒るかもしれません。でも、他に方法が思いつきませんでした。ただの商人……、それも財がない俺が出来ることは、この身を使うことだけです。グラエムが利用しようとするなら、俺も利用する。それが、商人のやり方です。俺の幸せを守るための最善の方法を、俺は取ったんです。
ルスタ様。
裏切っていて、ごめんなさい。
けれど、あなたのことが好きだったのは本当だと、信じてほしいです。あなたと一緒にいて、抱き締め合って、キスをして、一緒に眠ることが幸せでした。本当に、俺は、あなたが好きだったんです。
だから、ごめんなさい。
嘘をついて、裏切って、あなたを殺す人に手を貸してしまって、本当にすみませんでした。』
どうして。
ルスタは手紙を強く握り締める。
どうしてゼアンは、自分に一言も打ち明けてくれなかったのだろう。
怒ると思ったのか。グラエムと通じていると知り、ゼアンを許さないと思ったのか。ルスタは彼が裏切り者であると知っても、罰することは出来ないと思って泣いたのに、ゼアンは別のことを考えていた。
どうして。
どうして、私は、ゼアンの話を一度も聞いてやらなかったのだろう。
誤解したまま、すれ違ったまま、同じ思いを抱いてゼアンは間違った選択をしてしまった。話してくれれば、ルスタは彼を許し、グラエムを捕らえただろう。ゼアンの犠牲はいらなかったのだ。
それなのに。
嗚咽が漏れる。拳で目を覆い、手紙を濡らさないよう遠ざけた。彼からの言葉は汚したくない。
「どうして私は、一度も愛していると言わなかったのだろう……!」
思うだけで伝わることはないのに。
どれだけ愛しもうと、ゼアンにその真意は伝わっていなかった。彼が何者であろうと受け入れ、自分が傷ついても彼を愛そうと決めたのに。
それを言葉にしなかった。
悔いだけが、ルスタに残る。
どうか、彼に気持ちを伝えるチャンスが消えないよう、祈るしかない。
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