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彼は親孝行だ。ドがつくほどの。出先で甘味を見つけると必ず両親に買って帰ることを忘れない。自分が休日に家にいるときは夕飯を作ってやることも度々。家事も手伝い、食事を共にし、時々旅行へ行く。今時こんな息子珍しいと思う。
近所からの評判も良く、年末の町内のイベントには必ず出席したりする。
ある時、町内のゴミ置場が荒らされるという小規模だが大きな事件が続いたことがあったそうだ。その時も、彼は“荒らさないでくだい”という張り紙をわざわざ手作りした。誰かがあなたを見ています、という文も添えて。もちろんラミネート加工も施した。
間違ったことには素直に怒りを見せ、穏やかな表情をきつく結ぶときもあるのだ、彼にだって。全ては両親が安心して暮らすためだ。
こんな親孝行な、息子を持っていても、両親は彼の将来を危惧している。自分たちが先に逝った後、彼が独りになってしまうことを。そして、彼はその両親の気持ちも知っていた。高校時代以来、色恋の影を一切見せないようにしてきた彼には彼なりに、両親に心配をかけたくなかったのだろうか。私にはよく分からないが。
駅前の喫茶店。窓側の席。彼が改札を抜けてこちらに歩いてくるのを見つけた。もうこんな時間か、と手元のスマホの画面で確認する。彼の回想もここまでにしよう。私はマスターを呼んで会計を済ませた。いつもありがとうね、と初老のマスターが微笑む。
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