18人が本棚に入れています
本棚に追加
その女の人を、あの人は呼び止めました。
そして、手のひらに乗った小さなその包みを差し出して、言ったのです。
「ずっと、好きでした」
わたしの目の前で、女の人の頬がみるみる赤く染まっていくのを見ていました。
ぽろり、と涙をこぼすのを見ていました。
あの人の頬も、お揃いで真っ赤でした。
だけれど、すぐにふわりとやわらかく微笑むのを見ていました。
あの人は、次の電車を待っていたわけでも、この近くに用事があったわけでもありませんでした。
ただ、彼女を見ていたのです。
わたしがあの人を見つめ続けていたように。
心の中で、カラカラと音がしました。
鈴の音は、遠くで、うんと遠くで鳴っています。
駅舎の隅に置かれた小さなクリスマスツリーの金色のモールが滲みました。
レモネード色に滲みました。
最初のコメントを投稿しよう!