レモネード・クリスマス

6/8
前へ
/8ページ
次へ
 その女の人を、あの人は呼び止めました。  そして、手のひらに乗った小さなその包みを差し出して、言ったのです。 「ずっと、好きでした」  わたしの目の前で、女の人の頬がみるみる赤く染まっていくのを見ていました。  ぽろり、と涙をこぼすのを見ていました。  あの人の頬も、お揃いで真っ赤でした。  だけれど、すぐにふわりとやわらかく微笑むのを見ていました。  あの人は、次の電車を待っていたわけでも、この近くに用事があったわけでもありませんでした。  ただ、彼女を見ていたのです。  わたしがあの人を見つめ続けていたように。  心の中で、カラカラと音がしました。  鈴の音は、遠くで、うんと遠くで鳴っています。  駅舎の隅に置かれた小さなクリスマスツリーの金色のモールが滲みました。  レモネード色に滲みました。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加