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真夏の葬式
部屋の隅に、無造作に置かれた「あれ」を眺めながら、俺はほぼ毎日「どうしたものか・・」と考えている。無駄なものを一切置かない主義の俺の部屋に、どう考えてもそぐわない風呂敷包み。
「あれ」が俺の手元に来たのは、むせ返るほど暑い、夏の或る日のことだった。その日、俺は急逝した幼馴染、「まさや」の葬式に行った。葬式が行なわれたまさやの実家は、昔と何も変わっちゃいなかった。
「懐かしいなぁ・・」
古い洋館から「経」が聞えてくるのは、何となく変な感じがしたが、俺はさっさと焼香を済ませ庭を散歩していた。すると、どこからともなくブランコの揺れる音が聞えてきた。この家の庭は広大で、大木が何本も植わっている。その中の一本に、古びたブランコが設えてある。
「あぁ、そういえば俺、このブランコがお気に入りだったっけ・・」
俺はブランコに歩み寄った。蝉がうるさい位に、ミンミンと鳴いていた。
「こんなに小さかったんだ、ブランコ・・・」
子供の頃は大きくて立派に見えたブランコが、今は妙に小さくて古ぼけて見えた。
「たくや!久し振りだな!」
暑さの為に、ボ~っと木陰のブランコを揺らしている俺に、声をかけてきたのは山崎だった。
「おぉ、山崎、久し振り」
「もう焼香は済ませたのか?」
「うん」
「雛子は?」
「あいつは、今日は休めないって。夕べ来たらしい」
「そっか・・・ちょっと待ってろ、俺も済ませてくるから」
もう既に目を真っ赤に腫らしたこの男は、高校・大学の同級生だ。多分今日は、学生時代の友人がたくさん来ている筈だ。就職し、それぞれに忙しくなった仲間が一堂に会すのは、ひょっとするとこういう慶弔の席しかないのかもしれない。
「暑いな・・・、山崎、遅いなぁ・・・」
黙っていても汗が滴り落ちるほど暑い事に、俺は苛立ち始めていた。すると、向こうから喪服の女性が近づいて来た。おふくろと同年代に見えるその女性は、ドキッとするほど綺麗な人だった。俺は、こちらをジッと見ているその顔に、見覚えがあった。見覚えはあるが、思い出せない・・・誰だっけ?
「違っていたら、ごめんなさい。今野君じゃない?違うかしら・・」
もう少しでぶつかってしまうほどの至近距離まで近づき、その女性はそういった。
「あ・・、はい、今野です」
「やっぱり!久し振りねぇ、小学校の時以来かしら?」
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