華燭《かしょく》の典《てん》

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俺達はこの一言で、笑顔を取り戻した。山崎、サンキュ! 「じゃぁ、行きます」 山崎と俺は式場には入り、雛子は控え室に戻った。  式場は、祭壇に向かって右側に新郎の関係者、左側に新婦の関係者という席順になっている。最前列には、それぞれの肉親が座り、お袋の隣におばさんが、その隣には花束が置いてある。まさやの席だ・・・。俺は場内を見渡し、雛子の家族や友人達に、軽く会釈をした。そして、「二次会で苛めてやるんだから、ちょっとは食って元気付けとけよな!」と脅す山崎に笑いかけ、フッとまさやの席に目をやった。すると、誰もいない筈のまさやの席に、誰かが腰掛けている。俺は驚いて、凝視した。良く見ると、礼服を来たまさやが座っている・・・。 「まさや・・、まさやだよな?来てくれたのか?」 「あぁ、来たよ。たくや、おめでとう!あっ、ほら花嫁の入場だ!」 今、まさにドアが開き、父親に手を引かれた雛子が入場してこようとしていた。俺はと言うと、いる筈の無いまさやの姿に釘付けになり、もうそれどころでは無かった。。 「まさや・・・」 それから後の事を、俺は殆ど覚えていない・・・。三国一の花嫁との誓いの言葉も、指輪の交換も、キスも、上司の祝辞も、山崎達の喰えない余興も・・。漸く我に返ったのは、花束贈呈の時だった。 「私も見たわ。まさや君が来てたでしょう?あなたったら、心ここに在らずって感じで、可笑しかった!アハハ!」 雛子は、その時のあまりに呆けた俺の様子が可笑しかったらしく、後々までこのネタで俺をからかう、という暴挙に出る。俺は・・・、式の間中、あの凄く寒かった冬の日の事を考えていた。
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