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「よっこいしょ」
兄貴が腰掛けると、どんな椅子でも小さく見える。
「何だよ?何笑ってるんだ?」
「いや・・・」
「お前、椅子からケツがはみ出してる、って言いたいんだろぉ?」
兄貴は、4500㎏で生まれてきた。「お産が大変だった」とおふくろが言ってたっけ・・。小さい頃からデカくて、「気は優しくて、力持ち」を絵に描いたような子供だった兄貴。俺は、今でこそ兄貴と遜色ないが、小さい頃はチビだったから、「お兄ちゃんが僕の栄養まで取ったからだ!」と良く駄々をこねて困らせた。兄貴は体に似合わず「童顔」で、まつ毛なんか「クルン」とカールしている。小さい頃、おふくろがマッチ棒を乗せて遊んでいたっけ・・。兄貴が小学校三年生位の時だったと思うが、ある日女の子バリのまつ毛が嫌でハサミで切ろうとしていた兄貴に、慌てて止めに入ったおふくろがこう言った。
「まつ毛はねぇ、目を守る為にあるのよ?まつ毛が長くて多い人は、他の人より目が弱いって事なの。もしハサミで切っちゃったら、目がポロン!って落っこちちゃうけど、良いのぉ?」
兄貴は恐怖におののき、それ以来、まつ毛の事を気にしなくなった・・。でも、兄貴がいなくなってから、おふくろが「チョロイもんだ」と呟いたのを、俺は知っていた・・。おふくろは、そういうヤツだ・・・。
「最近、どう?」
「うぅん、まぁ、そこそこかな・・」
「窯は誰が見てるの?」
「友達」
「ゴメンな、引き出物なんか頼んじゃったから、忙しいだろ?」
「まぁな、でも良い宣伝にもなるから、お相子だな。ちゃんと払えよ?」
兄貴は陶芸家で、一年中窯のある愛知で、陶器を焼いている。今回は営業のついでに実家に帰ってきたのだ。
「うん、ちゃんと払うよ。でさぁ・・・、俺、マリッジブルーに見える?」
「アハハ!どうかなぁ?でも、あんまり嬉しそうじゃ無いぜ?」
「そっかぁ・・・。兄貴、まさやの事、覚えてる?」
「覚えてるさ!お前、毎日まさや君の家に行ってただろ?おふくろが『お兄ちゃん、たくや迎えに行って!』ってさ・・。で『またぁ?』ってな、アハハ!」
「だよなぁ・・」
「可愛い子だったよな・・、いつの間にか遊ばなくなったよな?」
「うん、五年生の時・・・」
「お前、知ってたか?まさや君、殆ど毎日の様に、お前を訪ねて来てた」
「えっ?」
「うん、たくや君いますか?ってな」
「ホント?」
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