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俺の記憶の片隅で、何かが音を立てて弾けた。
俺は、すごい勢いで昔にフィードバックし、その女性がまさやのおふくろさんであることを思い出した。まさやは、小さい頃からおふくろさんに瓜二つだったっけ・・。
「この度は、ご愁傷様でした」
俺は、大事な一人息子を亡くしたばかりの女性に、そんな通り一遍のことを言った。いや、通り一遍のことしか言えなかった、というのが正しいかもしれない。
「ふふ、そんな挨拶が出来るなんて、大人になったのね?」
「はぁ・・・」
「元気だった?」
「はい」
「外資系の会社に就職したんですってね?」
「良くご存知ですね・・」
「えぇ、まさやのお友達から聞いたのよ」
「山崎ですか?」
「ううん、女の子よ」
「はぁ」
「そう、良く遊びに来てくれたのよ、その女の子」
「そうだ!あなたに渡したいものがあるんだけど・・」
「えっ?僕に、ですか?」
「そう、あなたに。ちょっと待っててくれるかしら?」
「はい」
小走りに急ぐおふくろさんの後姿を見送り、少しすると山崎が帰ってきた。大柄な山崎がうな垂れている姿は、ちょっと情けないものがあった。
「待たせたな・・・」
山崎は、一向に顔を上げようとしない。俺は、ちょっと屈んで山崎の顔を覗きこんだ。驚いた事に、あいつの目からポタポタと大粒の涙が零れ落ちていた。
「お前・・泣いてんのか?」
「うん・・・、お前、棺の中のまさや見たか?」
「いや・・」
「あいつ、相変わらず綺麗な顔してた・・。今にも目を開けそうで・・」
「そっか・・」
無表情な俺の顔を見つめて、山崎が突然カッと目を剥いた。
「お前、何で見てやらなかったんだよ!」
「いや、別に深い意味は無いよ。それより、鼻拭けよ・・・」
「お前なぁ!」
山崎が怖い顔をして(何故かは分からないけど)俺に詰め寄った時、まさやのおふくろさんが、大きな風呂敷包みを抱えてやってきた。
「あらぁ、山崎君!」
山崎は、俺の胸ぐらから手を離し、おふくろさんの方に向き直った。
「おばさん、お久し振りです。あいつ、こんなに早く逝っちまうなんて・・、本当に残念です。俺、何て言ったらいいのか・・・」
「山崎君ってちっとも変わらないわね、前から泣き虫だったわよねぇ?」
「・・はい」
「良いのよ、あの子は結構楽しい人生を送れたと思うから・・」
「はい」
「あなた達みたいな良い友達にも恵まれたし・・」
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