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 羽衣駅に着いてドアが開くと、一番に飛び出して階段を上った。この先にお母さんの職場がある。そこにたどり着きさえすればどうにかなる。そう信じて階段を駆け上がったところで足を止めた。改札口に駅員が立っている。壁際に身を翻して乗客たちが過ぎ去るのを待った。姿を見られないようにかくれんぼうをしながら、背中で改札鋏の音を聞いていた。音がやんだので壁越しにそうっと覗いてみると、駅員は改札口の横の詰め所に座っていた。これでは外に出られない。  はじめて洋介は自分の行動の愚かさに気づいた。幼稚園児が一人で無賃乗車して無事に出られるはずがなかったのだ。急に辺りの空気が薄くなった。息を吸おうとしても胸が膨らまない。これは光化学スモッグの毒なのかもしれない。いろいろなことが混乱して、ほとんど転げ落ちるように階段を降りると、洋介は座る場所を探した。近くにベンチがあった。そこに腰を下ろし、両手で顔を覆った。肘を脚に置き目を閉じてうずくまると、暗闇のなかに蠢くヘドロのような影が見える。どうしようもなく恐ろしく心細くなり、腹の奥から大きな塊が上がってくるのを感じた。目の奥が熱くなる。のどが詰まって息を吸おうとしても勝手にしゃくり上げてしまう。どうしよう、どうしよう、どうしよう…… ──洋ちゃん。  顔を上げると母がいた。 「どこ行っとったんよ。探したんやで」  息を切らした母は汗を垂らしながら安堵とも恐怖ともとれない複雑な顔をしている。両手を差し出し洋介の脇を抱きかかえた。自分の足で立ち上がった洋介の目から涙があふれ出す。母の顔がよく見えない。 ──探しとったんはこっちの方や。  そう言おうとしたが、声にはならなかった。 「お母さん」     
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