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「すんません、写真なくて。今日着てるもんはわからんのですけど、炊事中に出て行ったみたいやから、部屋着みたいなもんやと思います。身長がこんくらいで」と言いながら頸の前に手をかざす。
洋介は上から見下ろす自分の手を見てはじめて、母が随分小さくなってしまったと思った。現実には自分が大きくなったのだが、感覚的には幼少期から成長した実感がない。大和川を越えてこちら側に来るときには、いつも洋介は子供であり母は母だった。だけど母はいつの間にか一人の老婆になってしまっていたのかも知れない。
「名前は。名前なんちゅうの」
白髪の一部を赤く染めた細身の女性が、はにかむように訊いてくる。
「鏑木光枝です」
隣の眼鏡をかけた女性が、顔を輝かせた。
「まっ。みっちゃんやないの」
口元に手をかざしてJOGGERS CLUBの女性の肩を叩く。
「ほら、真田先生んとこの」
「ああ、あんたがよう言うてた奥さん。おもろい人で絵心もあるっていう」
どうやら眼鏡の女性は絵手紙教室で母を知っているらしい。一見藁のように干からびた老人たちが、この上なく心強く感じて洋介は申しわけなく思った。
「最近見かけんと思ってたけど。ほんならこの人がみっちゃんの言うてたイケメンの息子さん? ほんまやわあ」
なあ、と猫のエサを手に持った女性に同意を求める。
「ほんまほんま、イケメンやわあ」
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