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JOGGERSの男性そっちのけで、女性四人で盛り上がっている。こういう光景を見ると、女性は何歳になっても女なんだと思わされる。はたして母もこんな風に女の楽しみを知っていたのだろうか。家でのようすからは想像できなかったが、母が絵手紙教室で面白いという評判を得ていて、しかも洋介のことを噂していたのだと聞いてちょっとした衝撃を受けた。思えば母の家庭以外での顔はほとんど知らない。はからずも母の秘め事を耳にしてしまったようで、もう二度と母に会えないのではないかという予感がヘドロに浮かぶ泡のように洋介の心に湧き上がってきた。
「おまえ、知ってんやったら誰かに訊いたれや」
圧倒される洋介に手を差し延べるように、男性が連れ合いらしき女性に言ってくれた。
「そうやな。お兄ちゃんちょっと待っとってや」
JOGGERSの女性はウエストポーチからスマートフォンを取り出すと、慣れた手つきで画面を撫でて耳にあてた。
「ああ、うち、うち。うん、そう。あのさあちょっと訊きたいんやけど、今日ってみっちゃんめえへんかった? うん、そう。ああ、そう。うん、たのむわ」
スマホを耳から離し右手に持ち替える。
「今日は見てへんけど、教室の仲間に電話して訊いてみてくれるって。ここでしばらく待っときや」
視線で洋介を舐めるように女性が言った。
「どうせ他にあてないんやろ。ババアたちのネットバークもすてたもんやないで」
キャハハと女性たちが大きな口を開けて笑った。洋介はどう反応すべきかわからず、曖昧な笑顔を浮かべた。
こういう、ノリを強要するような会話を洋介は好かない。たいていがどう反応したらよいのかわからないからだ。しかし今はともかく母の情報が最優先である。苦手でもなんでも機嫌を損ねないようにしなければならない。
「うちらみんな元気やろ。何歳に見える?」
これなら正解はわかる。
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