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 母の行方を探しにきただけのはずが、どうにもおかしなことになってきた。「そやろ」というのは返事を求められているのか。洋介にはわからなかったが、四人の目からはなにか言わなければならないプレッシャーを感じる。 「なるほど。ガールズトークならぬ、バー(・・)ルズトークってとこですかね」  洋介がぽつりと言った瞬間、会話が消えた。一帯に蝉の鳴き声が響いている。一人だけ時間の流れから足を踏み外してしまったようだ。のどが詰まる。 「いややわあ、お兄ちゃん」  女性が二の腕に添えた手でペチンと洋介の肩を叩いたのが合図とばかりに、全員がどっと笑った。時間が動き始める。のどに詰まっていたものを息とともに吐き出した。  洋介の返答は、はずれだったのかも知れない。だがそういった間違いやずれも、笑いの材料として受け入れてくれる。そうだった。この土地にはそういうところがあった。境界を越えて侵入して来られるのはわずらわしかったが、同時にひとところに頓着せず、悪者や間違いを作らないおおらかさがある。そうでなかったら洋介はもっと歪んでしまっていたかも知れない。  ちょうどそのとき句点を打つように電話が鳴った。 「うん、そう。ほんま。わかった、おおきに」  JOGGERSの女性は電話を切ると洋介の方に向き直った。 「羽衣駅で見かけた人がおるって。えらい急いどったらしいで」  駅とは盲点だった。確かにコンパスカードを持っているのだから電車に乗ることは考えられるのだが、それはとても目的を持った行動のように感じる。今の母がそんな合目的な行動をとるとは想像しづらかった。  今の場所から羽衣駅までなら直接歩いて行った方が早い。洋介は老人たちに礼を言い、すぐに駅に向かった。幸いいくつかある公園の出入り口のうちの一つがすぐ近くで、そこから駅までは一直線だ。
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