高値の理由

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 ヘラヘラ笑いながら、結城は言った。 「そうですか。ま、どうせデマでしょうけどね。買ってみたら何でもない、みたいな展開が待ってるんでしょうけど」  軽い調子で、風見は言葉を返した。だが、思わぬ展開になる。 「だったら、確かめてみようか。風見さん、まず注文してみてよ。で、何が届いたか……コラムとして書いて欲しいんだよね」  数日後、ポストに大判の封筒が入っていた。どうやら届いたらしい。  封を開けてみると、DVDと二枚の紙が入っている。一枚は領収書だ。もう一枚には、こんなことが書かれていた。 (もし気が変わってキャンセルされる場合、三日以内に下記の番号に電話してください。代金はきちんとお返しします)  風見は、注意深くDVDのケースを開けてみる。だが、何の異常もない。ドラッグでも入っているのでは……と思い、隅から隅まで見てみた。しかし、何ら変わった部分は見つけられない。  次に風見は、DVDを観てみた。約二時間、ゾンビとコックローチマンの死闘を見続ける……それは、もはや修行者の荒行にも等しい苦しみであった。  ようやく見終わったが、何もおかしな点はない。風見は数年前、既にこの映画を観ている。内容も、大まかには覚えている。  にもかかわらず、どこにも変わった点は見受けられない。  風見はため息を吐いた。結局は、何事もなかったというオチなのか。  まあ、それはそれで仕方ない。風見はパソコンに向かい、原稿を書き始める。今回は、二十万払った挙げ句に何もなかった……という内容で終わりだ。  もっとも、それならそれで仕方ない。万が一、本当にドラッグなど入っていたりした場合、対応に困ってしまうのだ。  もし、風見が一般市民であるなら通報して終わりであろう。しかし、風見のようなフリーライターの場合は……通報したことが知られると、裏社会の住人たちからの信用を失うことになる。  最悪の場合、あちこちから取材拒否をされることになるのだ。それだけは、絶対に避けなくてはならない。ドラッグだろうが拳銃だろうが、素知らぬ顔で海にでも投げ捨てる……それが、もっとも無難な選択だろう。
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