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さん付けするな。千二百石の旗本だぞ!
「……男性ですか?」
なんか文句あるのか?
「いえ……まあ、江戸の頃は禁忌でもなかったでしょうから。あなた、今でもそうですか」
いや、まったく経験ない。言われてみれば、もし八島様にお会いしたら、俺は上手にお相手出来るだろうか……。記憶は覚えているのだから大丈夫か?
「昔はどちらでした」
半々かねえ。職場が伝馬町だったんで色事は吉原で済ませていたが、女を買いに行く回数と陰間茶屋は同じくらいだったな。絶対女、って奴もいたけどな。
「あなたは伝馬町牢屋敷の牢屋同心で。で、八島様は? 獄に繋がれていたとかおっしゃいましたが」
八島様……。
あの涼やかな目元。凛とした佇まい。思い出すだけでこの身が疼く。
ああ、今、気が付いた。
この現代に、俺と同じように、あの人が転生しているとは、分からないのだな。
「そうですね。むしろ、可能性としては低い方かもしれません」
猫の姿で良かったと、俺は思った。
人の姿だったら、人の目も気にせず慟哭していたかもしれない。
この恋心を思い出したというのに、恋する相手はここに居ない。むしろ、死んでいるも同じなのだ。
これが絶望でなくてなんだろうか。
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