転生

10/11
前へ
/209ページ
次へ
 さん付けするな。千二百石の旗本だぞ! 「……男性ですか?」  なんか文句あるのか?  「いえ……まあ、江戸の頃は禁忌でもなかったでしょうから。あなた、今でもそうですか」  いや、まったく経験ない。言われてみれば、もし八島様にお会いしたら、俺は上手にお相手出来るだろうか……。記憶は覚えているのだから大丈夫か?  「昔はどちらでした」  半々かねえ。職場が伝馬町だったんで色事は吉原で済ませていたが、女を買いに行く回数と陰間茶屋は同じくらいだったな。絶対女、って奴もいたけどな。 「あなたは伝馬町牢屋敷の牢屋同心で。で、八島様は? 獄に繋がれていたとかおっしゃいましたが」  八島様……。  あの涼やかな目元。凛とした佇まい。思い出すだけでこの身が疼く。  ああ、今、気が付いた。  この現代に、俺と同じように、あの人が転生しているとは、分からないのだな。 「そうですね。むしろ、可能性としては低い方かもしれません」  猫の姿で良かったと、俺は思った。  人の姿だったら、人の目も気にせず慟哭していたかもしれない。  この恋心を思い出したというのに、恋する相手はここに居ない。むしろ、死んでいるも同じなのだ。  これが絶望でなくてなんだろうか。     
/209ページ

最初のコメントを投稿しよう!

155人が本棚に入れています
本棚に追加