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前世
伝馬町牢屋敷同心の俺の仕事は、牢屋敷に収容された囚人の監視だった。
不浄役人でも最も忌み嫌われた仕事だった。俺がやったことは、囚人の監視だけじゃない。取り調べによる拷問、処刑、囚人からの袖の下など重くなるほど受け取って、囚人の横暴を許し、囚人の訴えを退けた。
伝馬町に生まれ、親の家督を継ぎ、人生など、上手く甘い汁を吸った方が勝ちだと思っていた。腐っている、などというレベルじゃない。自分が悪人だと、俺は開き直っていた。囚人の方がずっと善人かもしれないと思ってさえいた。
牢屋敷は、今でいう刑務所ではない。どちらかと言えば拘置所だ。
お白洲に引き渡される前の、前段階。ここで刑が決定するわけではないし、無論刑に服す場所でもない。
俺が、本当に、心の底から惚れた人に出会ったのは、こんな場所だった。
その人は、一般の囚人と同じ扱いでやってきたわけではない。
揚座敷という、牢屋敷でも最も最上位の部屋に入ると言われた時には、一体外で何があったのか仲間と話し合ったものだった。
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