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鳥目? 夜は目が見えなくなるというのか? そのように這うようにして、それほど見えぬのにこの猫を追ってくるとは哀れ。しかし、返そうと思っても俺はこの身体に転生しているのでな。この世ではこの身体で生きるしかあるまい。
「前世はお武家様とお見受けいたしますが、少々落ち着かれなさいませ。その猫に転生したわけではありません。あなたは、もう既に人として転生なさっておられます。あなたの生霊が、その猫に憑いてしまった拍子に、前世の記憶を思い出されただけでございます。元の身体にお帰り下さい」
……あああ、そうだ、思い出した! あれ、俺何で黒猫になっちまってるんだっけ!? あれ、つうか、俺って……死んだの? マジか! 何で? 何をヘマしたんだっけ!?
「それはこちらが聞きたいです。とにかく、私の家に戻ってください。もうこれ以上、何も見えぬ空間を歩くことは難儀で仕方ありません」
前世なのか、現代なのか、一瞬分からなくなったのは、その男が着物姿だったからだった。
俺の記憶が正しければ、現代ではあまり着物姿というのはメジャーではないのではないのだろうか。
夏なので浴衣姿だったが、夜でよく分からないがおそらく浴衣でも綿麻、白地の博多帯を結んでいるところからみても、この辺りが温泉街というわけではなさそうである。
長い前髪が、顔半分にかかっているが、恐ろしいほどに美しい男だった。
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