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「怨霊も隙あらば宿主を求めたがりますが、あなたのように、不意に生霊になってしまった御方も、とにかく宿主を求めて入ってしまうんですよ。人でも、憑かれやすい人間というのはいますけどね。影虎は子猫の時分からとにかく憑かれやすい。憑かれてもいいんですよ、どっかに行ってしまわなければ。猫なので家に付きますから、ある程度は戻ってきてくれますが、霊が自分の身体を求めてとんでもなく遠くへ行ってしまったら探せませんからね」
憑いてしまってすまんな、と、俺は影虎と名のついた黒猫の肉球を見た。夜なのでよく分からないが、確かに飼い主が自慢するのも分かるほど尻尾や腹の毛は艶々としている。さぞ栄養状態がいいらしい。
「当たり前ですよ。美猫なんですから。プライドが高くて、他所でなど絶対に飯を貰いませんが、狩りは得意なので死ぬ心配はしていません。山鳩とか平気で捕まえますからね」
それは家猫のレベルなのだろうか。
「影虎の存在を恐れないのは五軒先のドーベルマンぐらいです。家に戻られたら分かりますよ。私の家の近所で影虎に適う動物はおりません。安心して散歩できますよ」
『俺はこのまま猫の身体でいるつもりはない。この宿主がどれほど強いかは重要じゃないんだ』
真那賀は、完全に見えていない様子で、視線を空に飛ばしながら、僅かにこちらに顔を傾けてみせた。
「そうですね。早く、あなたの元の身体に戻らねばなりません。四十九日の間に生霊が自分の身体に戻らねば、もう二度と戻れませんよ」
それは、死ぬ、ということか。
「死ぬだけならいいですが、まともに成仏できずに、下手したら怨霊になります」
俺は、文字通り身体中の毛が逆立った。
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