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「私は鳥目もあり、暗いところでは些細なものも判別できないのですが、同時に弱視でしてね。強い光がどうにも苦手なのです。……改めまして、瀬尾真那賀と申します。この瀬尾香木店の店主です。あなたがお入りになっている猫は、私の愛猫で影虎と申します。五歳の男盛りで、雌猫にモテてモテて仕方ありません」
猫自慢をしたいのは、猫の身体を奪われた恨みも入っているのだろうと、ここで俺はようやく気が付いた。返してやりたいのはやまやまだが方法が分からない。
ではこちらも自己紹介。
石田善九郎と申す。
伝馬町同心の石田壮次郎の嫡男として生まれ、家督を継いだのは二十三歳の時、前年に妻をめとったが四年、子がなく、妻は身罷り、後添えを探していた矢先に……
「いやいやいや、前世より先に、現世のあなたの事を教えて頂きませんかね。今あなたは、生霊なんですよ? 一刻も早くその身体を見つけて、その身体に戻ってもらわないと。私の可愛い影虎にいつまでも入っててもらっては困るんです」
俺の生き死により猫の方が心配かい。
「生憎、この状態慣れていますので」
まあ仕方ないな。いきなり猫を乗っ取った男の方を心配しろなんて無理な話だろう。
浅田健司通称アサケン。三十二歳。警視庁捜査一課第五係主任。警部補。彼女いない歴四年。結婚歴ナシ。キャバクラより風俗派。
「最後の方はどうでもいい情報ですが、警察の方ですか。伝馬町同心ということは、前世も現世も同じような仕事をなさっているということですよね」
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