転生

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 俺にとっては全然違う。前世の俺の仕事は、いわば拘置所の看守だ。警察は警察でも中身が違うよ。  真那賀、お前さん、俺がこの猫の身体に入ったことで、前世の記憶を取り戻したとなぜ分かった? 「思考が垂れ流しなのです。何であなたが話している言葉が分かると思います。私は猫語が分かるわけではありませんよ」  え! じゃあ、俺が一体何を考えているか筒抜けなわけ? 今の通り過ぎた女、尻の形は好みだとか! 「……そこまでは分かりせんよ。思念がはっきりしているものが、伝わってくるんです」  日中の陽の光がほとんど入らない店なので、猛暑日でも店の中は扇風機で事足りた。猫なんて毛だらけでさぞ暑かろうと思っていたが、この店は中に入ってすぐ土間がある。沓脱石で靴を脱いで畳に上がるようになっているが、ご用があったら畳の上に腰を下ろしてひと声かければ店主が客の望む品を運んでくる、という、ウインドーショッピングという概念がない時代の店の作りになっている。その土間がひんやりとしていてとても気持ちがいいのである。  長年人の足に踏み固められた土はしっとりとして、僅かでも土埃を舞わせたりしない。俺が日陰で寝そべっていても、黒い毛に土なんぞつかないくらいだ。     
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