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一体この店、どれ程前から続いているのか。あまり客足はないようだが、卸しで食っていけるのかね、こういう商売は。
「有名どころの寺院仏閣と昔からお付き合いをさせてもらっていたら、まあ安泰でしょうけどね。京都や奈良の線香臭い場所なら需要もあるでしょうが、死んだ先代の祖父が何とか繋いでくれた顧客や寺院とのお付き合いで続けていられるようなものです。私は弱視なので、この仕事しか生業にできませんし」
お前さん、齢いくつだ。
「二十六歳です」
いくら視覚が弱くても、盲目というわけではないし好きな仕事出来るだろうに。こんな、全然客足のない店に引っ込んでいなくても。
「大きなお世話ですよ。しかし呑気なお方だ。今までの方は皆、影虎の身体に入ったら冗談じゃないとばかりに元の身体に戻ろうとしましたよ。探さなくてもよろしいので?」
そうだ、この夏場だ。俺が一人でアパートにいる時に幽体離脱したら、肉体は腐っちまうかも!?
「どうにも緊張感のない方ですね」
もとの身体も心配だが、やはり思い起こされるのは前世のこと。ああ、記憶がまざまざと思い出されると、張り込みだなんだと暑い中歩き回ってる現世より、江戸の昔の鮮やかさよ。八島様……!
「芝居がかった口調は止めてもらえませんか。その八島さんは、恋仲だった人なんですね」
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