前世の罰

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 俺はこの顔も、身体も、前世の俺を思い起こすものは何もない。それは自分でも分かる。かろうじて、当時の男としては大きい方だったと思うくらいだ。だが、幕末期のあの頃、男の平均身長は今の平均身長よりもかなり小さかった。真那賀の家がかなり狭くて小さい造りなのだが、ああ昔ならおそらく全然平気で通れるな、と思ったものだった。  その中では俺は背があった方だと思うが、それだけだ。それしかない。今も前世も、そう大した男ではない。性格? いや、そんなものが一体何の目印になる。そもそも、樋口管理官は俺の性格を正確に把握できるほど接触してない。    何もない。今の俺も、前世の俺も、八島様に、樋口管理官に、これが俺だと示せるものなど、何も与えていないのだ。  ではなぜ、あの人が八島様だとしたら、なぜ俺だと分かるのだ。    あの人は、いつから前世の記憶があったのだろう。  そしていつから、俺が石田善九郎だと分かっていたのだろう。  俺は、こうして猫の身体に入るまで、自分に前世があったことも分からなかった。  そんな俺を見て、一体何を思っただろう?  マキが、あれこそが自分の運命の相手だと分かっているのに、それを伝えられないのが罰だとしたら、八島様に一体何の罰が下される理由がある。  家名を守るために、濡れ衣を背負い、あんな死に方をしたあの人が、一体何の罪を負う必要があると言うのだ。  罪を負うとしたら、俺の方だ。あの人を、救うことが出来なかった、俺の方だろう。たった一人愛した人を、孤独の中で死なせてしまった、俺の方が罪深い。     
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