1 穀潰し無駄に生きる

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1 穀潰し無駄に生きる

 産んでくれた感謝の思いは産み落とされた苦しみで相殺されてチャラになった。僕は頼んでもいないのに勝手に生を宣告されたかわいそうな身、ということになるから、親の金で生きていけばいいと思っているし、働かなかったところで特に罪の意識はない。  親が死んでしまったらそれまでだけど、当分先の話だし、そうなったら僕も死んでしまえば済む。そもそも親は母親しかいないけど、それって好き放題やって孕んで逃げられたってことだからますます親の責任だけが大きい。  などと言っていたら本当に親が死んでしまった。じゃあ僕の番ということになるが、こんな突然に来るとは思わなかったから死に方は何も調べていない。あまり知識がなく死ぬと痛そうだし、どうせ死ぬのなら焦って死ぬことはない。  ただどうすればいいかよくわからなかったから、親戚の叔母さんに電話をした。母親と血が繋がっているのは叔父さんのほうだけど、ちょっと怖そうだから平日の昼間、叔母さんが電話に出そうな時を狙って電話する。  午後には叔父さんと叔母さんが揃って押しかけてきて、特に叔父さんは凄い剣幕だ。僕が電話をしたのは叔母さんだけなのに話が違う。叔父さん、会社はどうしたの。いろいろよくわからない。だから親戚は嫌なんだ。  ともかくよくわからない僕に代わって叔父さんが葬式を出した。こういうのは歳を取った世代ほどこだわりが大きくて、どうでもいいことにもうるさいから、全部任せてしまうのが合理的だ。でも、叔父さんは思いどおりにやってもまだ機嫌が悪く、いわゆる面倒くさい系の人物なので適当にやり過ごすに限る。  叔父さんは弔問客へはしんみりと、僕には怒り狂い、叔母さんはしじゅう目を伏せていた。そして葬式が終わると、叔父さんはもう今後お前の面倒は見ない、と言い捨てて去っていった。  やれやれ。  平和が戻った。  後には白い布で包まれた箱と僕が残った。これからどうやって生きていこうか。  働く、というのはひとつの方法だが、それは嫌だからそれ以外になる。難しい問題だが、難しい問題を考えてもわからなければ考えないに限るのではないか。  とりあえず僕は寝ることにした。まだ昼間だが特に問題はない。いつもやっていることをするだけだ。  とりあえず一週間ぐらいは、母親の料理がインスタント食品に変わっただけで特に変わりない日々が続いた。
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