1 穀潰し無駄に生きる

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 ただ、残された財布の現金は日々減っていたし、お金を引き出さなくちゃいけない。でも暗証番号わからないや。どうしよう。  ネットで調べたら相続すればいいんだけど手続きが難しくてわからない。でも死んだことが銀行に知られてしまうと、相続手続きが終わるまで口座は凍結されてしまうらしい。困った。  引き出しを漁ったら通帳が出てきた。よく見ると死ぬ数日前に記帳していて残高は四桁だった。これじゃ全く役に立たない。僕は通帳を投げ捨てた。  困ったなぁ。結局は産み落とされた苦しみを呪うしかないのだ。  おかねがありません。  それくらいのことで飢えて死ぬとは、拝金主義に支配された現代社会の病理ではなかろうか。  そんな腐った社会を、政治家や社長やそのほかいろいろよくわからないけどなぜか偉い人たちとか、特に偉くないけど意識高い人たちがこううまい感じに是正してください。  なんだっけ、健康で文化的で最低限度の生活というやつを保証していただきます。  そんなことを考えていたらチャイムが鳴った。  チャイムが鳴る、という現象が僕に関係があったためしはない。この家に客が来ることがあるとすればそれは母親に来るということを意味する。だから、僕が腰を上げる必要は何もなかった。来客には母が応対する。当たり前だ。  でもその母親がいないとすればどうなのか。結局、母親が死んだせいで僕は玄関にわざわざ出迎えるハメになるのだ。完全な被害者だよね。ああめんどくさい。  ピンポーン。  また鳴った。もう一度言います。めんどくさいです。めんどくさいというのは、出ないということです。ここまではっきりと言われないとわからないのですか。自分の頭を少しは使ってください。言わないけど。  ピンポピンポーン。
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