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瑠璃は病院を出て走る。タクシーを捕まえようとしたが、タクシーが走っていない。それどころか車自体走っていない。坂本動物病院は此処から車で約三十分。自分の足で行くにはなかなか遠い。タクシー会社に電話をかけようとした時、前方から良く知った声。
「よぉ。母ちゃんの容態はどうだ兄ちゃん」
ルスランだった。数時間前のような冷たさは無く、いつものルスランだった。色々なことにホッとしたのか、ルスランの親しみのある声に瑠璃の涙腺が思わず緩む。
「お袋、目を覚ましました。ジュンも、ヴォルフさんも無事だったみたいです。本当に、馬鹿なこと言ってごめんなさい」
「あーもう泣くな泣くな。目ぇ腫れてんぞオイ」
「ごめんなさい……。今から、ジュンが居る病院に行こうと思って」
「一緒に行こうぜ」
「今、タクシー呼びます」
「無事なんだろ? 話でもしながらゆっくり歩いていっても問題ねぇだろ。……俺も、兄ちゃんに大事な用事があるしな。俺と一緒なんだ。人通り少ねぇ道だろうが安心だろ?」
「……はい」
「よし、決まりだ。行くぞ」
瑠璃とルスランは並んで歩く。話でもしながらと言いつつ、ルスランは何も話してこない。瑠璃も疲れていたため、何も話さなかった。
他に誰もいない暗い道。成人の男であっても怖い静けさ。だが、ルスランの言った通りだった。ルスランが横に居るだけで心強く、恐怖心なんて微塵も無い。
二十分程歩いた所で、ルスランが口を開いた。
「さっきはキツいこと言って悪かったな」
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