855人が本棚に入れています
本棚に追加
「どういうつもりだよ……」
男は閉じられていた猫目をゆっくり開き、琥珀色の瞳でルスランを見据える。そして、にっこりと穏やかに微笑んだ。
「答えは簡単さ。猫は気まぐれだからだよ」
「……もうやだ。わけわかんねぇ」
「ふふ。で、どうしよう。僕と戦うかい? 負け戦はしない。それが君だ。そうだよね? 僕が言いたいこと、伝わってると嬉しいな」
ルスランが乱暴に頭を掻き、「帰るぞ!」とメリッサに大声を上げる。メリッサも珍しく戯けたりはせず、男を警戒しながらルスランの後を追った。
チリンと心地の良い鈴の音が瑠璃の耳を擽る。驚いて声も出ない瑠璃を振り返り、男は優しく微笑んだ。
「怪我はないかい? 瑠璃君」
「……ちょっと待って。お前、まさか、あの時の」
先程のようにダルメシアンから自分を庇うように立った黒猫を思い出す。クロと呼んで可愛がっていた黒猫を思い出す。祖母が亡くなった時に怒鳴りつけてしまった黒猫を思い出す。チリンと響く鈴の音を、宝石のような琥珀色の瞳を思い出す。
「もしかして、クロ……」
「ああ、またその名前で僕を呼んでくれるんだね。とても嬉しいよ」
最初のコメントを投稿しよう!