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第26話:すれ違う気持ち
クロと呼ばれた男と瑠璃が見つめ合う。瑠璃の身体はまだ強張っていた。
クロがにこりと微笑んだ瞬間、瑠璃は地面に膝を着く。力が抜けてしまったのだ。クロはその場にしゃがみ込み、瑠璃に視線を合わせる。
「怖かったね。大丈夫かい?」
「なんか、もう……」
瑠璃が俯きながら両手で顔を覆う。
「なんかもう、いっぱいいっぱいで。何がなんだか、整理出来ない」
「そうだね。君は少し休むべきだよ」
「本当に……クロなの?」
クロはニコニコ笑いながら、瑠璃の肩に手を置く。
「うん。僕は君の知ってるクロで合ってるよ」
「猫までいるなんて聞いてない……」
「ふふ。犬と狼がいるなら当然猫だっているさ。僕の事が信用出来ないかい? でも考えてご覧よ瑠璃君。野良犬と狼と野良猫。一番無害なのは猫だよ。人間を襲ったりなんてしないからね」
クロはそう言って腰を上げ、瑠璃に手を差し伸べた。
「さぁ、立とうか。凍えてしまいそうだよ。シェパード君の所に行こうとしてたんだよね?」
「なんで、知って……」
「ふふ、秘密だよ。僕はよく胡散臭いと言われるんだ。僕もそう思う。でも僕は君の味方だよ。それだけは嘘じゃない。安心して欲しいな」
「……」
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