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「遅くなってすみません」
「瑠璃さ──」
坂本動物病院に到着した。時間外にも関わらず梅吉は瑠璃の為に病院を開けてくれていたのだ。
弥助は入ってきた瑠璃に声をかけようとして目を見開く。弥助の視線の先にはクロ。それに気付いた瑠璃は、慌てて弥助に説明をしようとした。
「あ、や、弥助さん。迷惑かけて本当に、本当にすみませんでしたっ。えっと、こっちはクロと言って、その……」
弥助は瑠璃の肩に手を置く。
「弥助はいいんです。あんたが謝る相手は俺じゃない。ジュンさんでしょう。声かけてやりなさい」
「は、はい……」
瑠璃は弥助に頭を下げ、診察室に入って行く梅吉の後について行った。待合室には弥助とクロの二人。弥助は化け物でも見ているかのような表情でクロを見ていた。
「……思い出した」
「こんばんは」
「あの時俺が襲おうとした子供も、瑠璃色の目だった。その子供の前にあんたは立った。あの時瑠璃さんをジュンさんの元に導いたのもあんただ」
「こんばんは。ねぇ、挨拶は大事だよ」
「偶然だとは思えない。瑠璃さんは一体何者なんだ。どうしてあんたが瑠璃さんに近付く」
クロは閉じられていた目を開いて、弥助に向かってにんまりと笑みを浮かべる。
「それを君が知ってどうするんだい? ダルメシアン君」
「瑠璃さんは俺達にとって重要な人ですから。何かあっては」
「ふふ、“君達にとって”じゃないよね。“君にとって”……だよね」
弥助は眉を寄せて黙る。クロは楽しそうにクスクス笑った。
「君、意外と嘘吐けないんだねぇ。知らなかったよ。狡賢いイメージだったからさ。ふふっ」
「……目的はなんですか」
クロは笑みを消すこと無く、視線を外にやった。
「どうって事ないよ。僕は約束を守りにきただけさ。ただそれだけの事だよ」
「約束とは?」
「君に話すことではないよね。これは僕と瑠璃君の約束だ。君は何一つ関係ないもの。関係のない者には喋りたくないなぁ僕」
「あんたの事です。今犬がどういった状態かお分かりのはず」
「そうだね。だけど僕は関係ないよね。だって僕は猫だもの。犬のいざこざなんて僕は少しも興味ないなぁ。犬がどうなろうと僕達猫に害はないからね。犬はまぁ、大変だろうけど頑張って。陰ながら応援させてもらうよ」
「思っても無いことを」
「ふふっ」
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