第26話:すれ違う気持ち

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「何も変わっていないよ。相変わらず、危なっかしい程のお人好しだね。もう少し疑う事を覚えないと。ま、そこが瑠璃の良いところではあるんだけどね。あの子はなんでも受け入れてしまう」 「危ういね」 「でしょ? 昔からそうだった。普通の人間なら絶対に僕を受け入れたりはしないもの。僕を受け入れた結果、瑠璃は身を滅ぼした。僕はあの子を一度殺した。君こういう話し好きだろう。誰からも恐れられてきた猫が、不幸を運ぶと忌み嫌われてきた猫が、化け猫と呼ばれてきた猫が、たった一人に受け入れられてこの上ない幸福を感じて。なのにその猫は受け入れてくれたそのたった一人を自らの手で殺した。さて、君ならこの話しの続きをどう吟じる?」  そうだなと呟き、吟遊詩人はギターで穏やかな曲を奏でる。 「うーん……難しいな。その物語、私なら吟じる側ではなく聞き手に回りたいかな」 「おや。珍しい」 「私は人間だからね。異種の話を作るのは苦手なんだ」 「君昔、蛙と鼠が戦争する話作ってなかったっけ」 「ノーコメントで」  クロは「よいしょ」と声に出しながら腰を上げ、その場から去る為下駄の音を鳴らしながら歩き出した。その背に向かって、吟遊詩人は声をかける。 「例え悲しい結末が待っていようとも、美しい話であってほしいと私は切望する」  その言葉に、クロは振り返って優しく微笑んだ。 「そうだね。散って行く桜の花びらは美しいからね」     
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