855人が本棚に入れています
本棚に追加
/1873ページ
***
瑠璃がチケットを当てる約一ヶ月前。
京都の花街、宮川町。情緒溢れるこの町では、美しく着飾った舞妓達が白い息を吐きながら歩いていた。
そんな中、菊の花簪を付けたふんわりとしたショートボブを揺らしながら着物を着た小柄の女が走っていた。
「姉さん!」
突然扉を開けられ、化粧をしていた女がビクリと身体を強張らせる。
「もー……いきなり開けたらあかん言うたやろ? 化粧中は尚更」
「あ、ごめんなさい」
小柄な女は、化粧中の女の横に座り、嬉しそうに笑っている。
「どないしたん。ええことあった?」
「ふふふ。うん。ほんまええこと。実は、華本屋さんでスイートポテト出はったんやてぇ」
言いながら、小柄な女は期待に目を輝かせている。化粧中の女はやれやれと言った感じで笑いながら溜息を吐いた。化粧道具を一度台に置き、側に置いてあった和柄の財布を取って中から千円札を出し小柄な女に渡す。
「菊江ちゃん。お小遣い欲しいなら、目で訴えんと素直に言うたらええのに」
「わぁおおきにぃ、姉さんっ」
「せや」
女は、もう一度財布を取って菊江と呼んだ女に五千円を渡す。
「ん? このお金は? お遣い?」
最初のコメントを投稿しよう!