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「今日星野はん来はるから。金平糖と京飴買うといてくれへん?」
「星野はん……!? ニューヨークから帰って来はったん!?」
「さっき連絡貰てね。菊江ちゃんにもぎょうさんお土産買うてきはったみたいやで」
「ふふっ! 星野はんに会うの楽しみ! ぎょうさん買うてくるし! 行ってきます!」
「気ぃ付けて」
菊江は元気良く花街に飛び出す。向かう先は行きつけの和菓子屋さん。芸妓である巴の旦那である、星野という老人の好物である金平糖と京飴を買うためだ。旦那と言っても、本当の旦那ではない。言ってしまえば、パトロン。支援者である。この業界で旦那という存在は昔は当たり前であったが、今は滅多に見られない。生涯、自分のお気に入りの一人の芸妓を支え続ける存在だ。超がつく程の金持ちでなければとてもじゃないが務まらない。
星野という老人は世界に名を轟かせる大企業の会長でありながら未婚。面倒な客も多い中、酒も飲まずに金平糖や飴を口に含みながらのんびりとなんでもない話をして過ごす星野の事が菊江は好きだった。巴の妹分ということで、菊江のことも本当に可愛がってくれる。
(ふふっ。星野はんと姉さんの分のスイートポテトも買うて帰ろ。三人で仲良う食べるんや)
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