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「う、ううっ。怖い者に会うてしもたんどすぅ」
「こ、怖い者? 変質者? 通報しよか?」
「通報は平気どすぅ。おおきにぃ」
すっかりテンションが下がってしまった菊江は、溜息を吐きながら飴を見る。
「せやせや、菊江ちゃん。今度お芋の飴さん出そう思うてんねやけど……食べてみぃひん? まだ試作品やけど」
「お芋の! 飴さん!? はぁああ……っ」
途端に目を輝かせ頬を染める菊江に、店主が可笑しそうに笑った。
「菊江ちゃんはほんまお芋好きやなぁ。はい、どうぞ」
貰った紫芋の飴を頬張り、菊江は幸せそうな顔をする。
「んにゃぁ……絶品どすぅ……」
「良かった。胸張って出せるわ」
「毎日買いにきますぅ」
「あっはは。それで? 今日は何を?」
「あ、金平糖と京飴を」
「お。豆千代姉さんの旦那はん来はるんかな?」
「ふふっ、正解どす」
豆千代とは、巴の芸名である。
「あと新発売のスイートポテトを三つ」
「ややわぁ」
うんざりとした表情でそう言いながら入って来た和服姿の中年女に、菊江は目をやる。
「いらっしゃい。どないしはりました?」
「そこで靴磨きしてはんねん。此処を何処や思てんねやろなぁ。あんなん居たら街の品格落ちてまうやんか」
「靴磨き?」
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