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だが、この巴の存在に救われた。菊江が人になれることを打ち明けても、巴は妹のように接してくれた。巴が色んな人に菊江を紹介したことにより、多くの人が菊江を可愛がってくれるようになった。
そのような経緯があったからか、中年女の言葉に菊江は胸が痛くなった。
菊江は買い物を済ませ、外に出る。そして、男の方を見た。客は誰も居ない。
そして、また目があった。びくりと身体を跳ねさせた菊江を見て、男が立ち上がり近付いてくる。
(ひぇえええ! なんでこっち来はるの!? 犬怖い!)
菊江の中で犬は怖い存在だった。この男は、犬種は分からなかったが菊江から見て確実に犬だった。犬が猫を食い殺すなんてことはそこまでないが、少なからずそういった例もあるのは事実だ。それに、犬は野蛮といったイメージが菊江にはあったのだ。
とうとう男が菊江の目の前に立った。近くで見ると尚更端正な顔であることが分かる。上目遣いで青褪める菊江を見て、男がキャスケットを取ってそれを自身の胸に当てる。
「ひぇっ」
「突然ごめん。君、猫だよね? 多分、俺が犬だって分かってる……よね?」
「ひぇえごめんなさいぃっ」
「え!? 何に謝ったのかな!?」
ガクガク震える菊江に、男は困ったように視線を逸らす。
「あー……猫ってもしかして、犬が怖いのかな。えっと、俺は別に君に危害を加えようとしてるわけじゃなくて……少し、尋ねたい事が。……大丈夫?」
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