第28話:風に負けない子

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 文也は蘭丸の特殊な表情を見て茶化すのを止めた。可哀想なくらい、笑顔が強張っている。その表情のまま、蘭丸が眉を寄せた。瞳孔が開いている。まるで、何かに怯えているようだ。 「私は……」 「え。何その反応。無理すんな。こっちが聞くの怖くなったわ」 「……」  蘭丸は暫くその表情で硬直した後、文也の目を見た。瞬間、いつのも笑顔に戻る。 「蘭丸は、普通の子供でした!」 「──っ」  文也の背筋が凍った。ゾワッと、鳥肌が立つ。それが何故だかは分からない。だが、文也は蘭丸に何とも言えない違和感を感じたのである。 「もう、吃驚するくらいの普通の子供でした! もっとヤンチャしておけば良かったかなぁ」 「……そうか」 「はい。本当に、普通の子供でした」  文也は短くなった煙草を灰皿に押し付け、火を消した。そして、マグカップを手に取ってチャイを飲む。  恐怖とは違う。不気味とも違う。良く分からない感情が文也の中で渦巻いていた。  ただ瞳孔が開いていた蘭丸の目が切なく見えたので、文也は声を掛けてみる。 「今度、実家連れて行ってやろうか。俺の馬鹿族に、会わせてやろうか」  文也のその言葉を聞いて蘭丸はキョトンと目を丸くする。だが次の瞬間、満面の笑みで「はい」と言った。作り物ではない。心から笑っている。 「稲刈りのお手伝いも、してみたいです!」 「おー死ぬ程やらせてくれるぜ。悪ぃ、ちょっとトイレ」     
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