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二人はギリっと歯を食い縛り、頭を下げてその場を去った。少年はその二つの背中に「バーカ!」と連呼した後、キラキラとした瞳を真尋に向けた。
「パン! これ、真尋に」
「此処には来るなと言ったはずだが。君も私の言うことが聞けないのか、スズ。従えない者は必要ない。出て行けと私の口からそう言わせたいのか」
スズと呼ばれた少年が、息を飲んで冷たい目を見上げる。
「ち、違うぞ! これ、パン、美味しかったんだ! 真尋もね、絶対美味しいと思うんだぞ! だから俺ね、真尋にね、食べてほしくてね……だから……」
「必要ない。迷惑だから帰りなさい。二度と此処に来るな。約束を守れないようなら、君を追い出す」
「……」
「返事は」
「……はい……ごめんなさい……」
項垂れるスズに同情する素振りもなく、真尋は溜息を吐いてその場から離れた。残されたスズは項垂れたまま、パンが入った紙袋を抱えてトボトボと歩いた。
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