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スズが嘘を言っているようには感じなかった。恐らく、本当にぶたれたりはしていないのだろうと。だが、大事にされているようにも感じなかった。
普通の飼い犬や飼い猫ならば、大事にされていない子も沢山いるという現実は知っている。しかし人になれることを明かした同じ存在の者がパートナーに粗末に扱われているという話は今まで無かった。皆、自分の主人と良い関係を築いている。普通の犬より良い関係が築きやすいのは当然なのだ。何故なら、銀次達は自分の気持ちや考えを伝える口がある。意思疎通がしっかり出来るからだ。
「確認なんやけど、真尋兄さんはスズ君がこの姿になれること……」
「知ってるぞ。けど、それが間違いだったのかもしれない。真尋が俺に冷たくなったのは、この姿を見せてからだからな」
もう目も合わせてもらえないと呟いたスズの声は、弱々しかった。
(……ああ。こういうパターンもあるのか。認めて貰えることが当たり前って、僕麻痺してたわ……。拒絶反応が出る人も居る。当然や。僕らは運が良かっただけで……)
スズに向かって、運が悪かったなぁなんてことは、とてもじゃないが言えない。主人を変えた方がいいとも、口が裂けても言えない。同じ犬として分かるからだ。一度主人と認めた相手を、信じたい。縋りたい。
(なんて言葉を掛けるのが正解なんやろ。分からへんわ……)
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