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真尋である。真尋は旭の声に少し驚いた表情を見せ、コートを店員に預ける。
「倉本さんも此処の会員でしたか」
「ええ。と言っても、つい最近ですけど」
「そうですか」
真尋はあからさまな作り笑いを浮かべ、カウンターの端に座った。
「良かったら、僕の隣に座りませんか?」
「いえ、結構。お気遣い痛み入ります」
(やっぱり目が笑ってないーっ)
相変わらず冷たい視線を向けてくる男である。ユキも似たような感じではあるが、まだマシだ。ユキはなんだかんだで付き合ってくれるし、ああ見えて冗談も通じる。だがこの真尋という男は本気で馴れ合いを疎ましく思っているようだ。
「立川様、いつものでよろしいでしょうか」
「ああ、それで」
「畏まりました」
「真尋さん、よく此処にいらっしゃるんですか? 僕もたまに此処来たくなっちゃって。今日は友人を誘って飲みに来たんです」
「そうですか」
「あ、はい」
話し掛けて来るなオーラが凄まじい。話してみたら意外とノリが良いかも知れないとほんの少し思った旭だったが、見事に玉砕した。涼は真尋の澄ました態度が気に喰わないのか、冷めた視線を投げる。
「よう、社長さん。柴犬のガキは元気か?」
「りょ、涼ー……っ」
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