第5話:自分の居場所

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*** とある廃墟では、ヴォルフの笑い声が響いていた。 「で、人から手当てされてノコノコ帰ってきたと。傑作だな」  アドルフはヴォルフに首を絞められ、苦しそうに表情を歪める。 「どんだけ情けねぇんだよてめぇは。ああ?」 「ヴォルフ」  メルの声にヴォルフは舌打ちし、アドルフを解放する。 「飯の調達でも行ってくるわ。アドルフ、てめぇの分はねぇ。食いたかったら自分でなんとかしろ」  返事をしないアドルフが面白くなかったのか、ヴォルフはアドルフの腹に膝蹴りをする。踞ったアドルフを鼻で笑い、ヴォルフは出ていった。 「……大丈夫?」 「ん……」 「帰ってきてくれて良かった」 「……うん。メル……」 「ん? どうしたの。傷が痛い?」 「俺は、犬でもないし、狼でもない。ヴォルフが言うように、凄く役立たずだ。そんな俺でも、メルは必要なの?」  メルは泣きそうな顔でアドルフの手を握った。 「何を言ってるの……当たり前だよ」 「メル」 「必要に決まってるじゃないか」  メルはアドルフの手を自分の頬に当てる。 (知ってるよメル)  アドルフはぼんやりとメルを眺める。 (メルはただ寂しいんだよね。メルにとって、俺みたいなダメな奴は理想。そうだろメル。メルは俺を守りたいんだよね。あの時、出来なかった事を、俺で満たそうと……)  アドルフがメルの額に唇を寄せた。 (知ってるよ俺。メルは俺じゃなくてもいいってことを)  ──ああ、俺の本当の居場所なんて何処にもないんだ。 <第6話に続く>
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