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とある廃墟では、ヴォルフの笑い声が響いていた。
「で、人から手当てされてノコノコ帰ってきたと。傑作だな」
アドルフはヴォルフに首を絞められ、苦しそうに表情を歪める。
「どんだけ情けねぇんだよてめぇは。ああ?」
「ヴォルフ」
メルの声にヴォルフは舌打ちし、アドルフを解放する。
「飯の調達でも行ってくるわ。アドルフ、てめぇの分はねぇ。食いたかったら自分でなんとかしろ」
返事をしないアドルフが面白くなかったのか、ヴォルフはアドルフの腹に膝蹴りをする。踞ったアドルフを鼻で笑い、ヴォルフは出ていった。
「……大丈夫?」
「ん……」
「帰ってきてくれて良かった」
「……うん。メル……」
「ん? どうしたの。傷が痛い?」
「俺は、犬でもないし、狼でもない。ヴォルフが言うように、凄く役立たずだ。そんな俺でも、メルは必要なの?」
メルは泣きそうな顔でアドルフの手を握った。
「何を言ってるの……当たり前だよ」
「メル」
「必要に決まってるじゃないか」
メルはアドルフの手を自分の頬に当てる。
(知ってるよメル)
アドルフはぼんやりとメルを眺める。
(メルはただ寂しいんだよね。メルにとって、俺みたいなダメな奴は理想。そうだろメル。メルは俺を守りたいんだよね。あの時、出来なかった事を、俺で満たそうと……)
アドルフがメルの額に唇を寄せた。
(知ってるよ俺。メルは俺じゃなくてもいいってことを)
──ああ、俺の本当の居場所なんて何処にもないんだ。
<第6話に続く>
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