第6話:知るべき痛み

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 女の子に電話をかけまくる女好き文也。いつもなら誰かしら応じてくれるのだが、今日はなかなか釣れない。ガクリと肩を落とし、文也は気になっていた中華料理屋の地図を検索する。諦めたのだろう。流石に六百以上入った女の連絡先に一つ一つ電話をかけていくのはしんどい。スマホ片手に場所を確認しながら文也は歩く。 「えーっと。この角を右……おわっ」  角を曲がった際誰かと衝突してしまう。衝突された相手は尻餅をついてしまう。その人物を見て文也は青ざめた。  相手は男。老人。そしてその老人の傍らには、心配そうに寄り添う黒いラブラドール。盲導犬だ。そう、相手は盲目。 (やべ……やらかした)  文也は慌てて老人の身体を起こす。 「すみません、大丈夫ですか」 「ああ……」 「本当に申し訳ないです。あまり前見てなくて」  スーパーにでも行った帰りだったのだろうか。転んだ際老人は袋から手を離し、中身をぶちまけた。その中には卵もあり、見事に割れて悲惨なことになっていた。文也は歩きスマホをしていた自分に後悔する。 「あー……すみません。卵、割れたみたいで」 「ああ……そうか」 「今時間あります?ちょっと待っててもらえませんか? すぐ買ってきますから!」 「あ、いや、大丈夫」 「ほんとすぐ買ってきますんで!」  卵以外のものを袋に入れ文也は老人に手渡し、割れた卵が入ったパックを持って近くにあった個人経営のスーパーに走っていく。 「行ってしまったか……」     
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