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「本当にすみませんでした」
「いやいや、こちらこそ。わざわざすまないね」
なんとか卵を買った文也。走った為若干息切れしている。運動不足だなと肩を落とし、文也はじわりと滲んでいた汗を拭った。
「今、帰宅中ですか?」
「ああ」
「良かったら、家まで荷物運びましょうか」
食材の他に牛乳が三本入っていた。それなりに重い。罪悪感があった文也は運ぶことでその罪悪感を祓いたかったのだ。
「あ、全然その、怪しい者ではないので。悪さしたら普通の人間の十倍は強く叩かれる世界にいる身なんで……」
老人は文也の気持ちを察したのだろうか。少し困ったように笑い、そして袋を差し出す。
「じゃあ、お言葉に甘えようか。すまないね」
「いやいや全然! では、行きましょうか。場所は?」
「ああ、この先に駄菓子屋がある。その駄菓子屋のところを左に曲がって、後は真っ直ぐだ」
文也は老人の歩幅に合わせ横をゆっくり歩く。ラブラドールも、自分の主人の様子を窺いながらゆっくり歩いていた。
文也はそのラブラドールに違和感を覚える。詳しくはなかったが、そのラブラドールがつけているハーネスは恐らく盲導犬協会が貸し出しているものではない。
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