第6話:知るべき痛み

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「……盲導犬ですよね?」 「ああ、蘭丸(らんまる)っていうんだ。立派な名だろう?信長でもない俺にここまで尽くしてくれて」  老人なりに冗談を言ったらしい。少しニヤニヤして文也の反応を待っている老人に気付き、文也はなんとか笑って見せた。 「冗談はさておき、蘭丸は本当に凄いんだ。蘭丸は元々野良犬でね、俺が拾った犬だった。去年、俺は視力を失った。誰が連絡したかは不明だが、盲導犬協会の人が来てね。この蘭丸は訓練せずとも盲導犬の仕事が出来るっていうんだ。今じゃ本当に助かっているんだが……。協会の人間も親切でね、ボランティアで俺の身の回りの世話をしてくれる。いつも来てくれる青年が言うには、どうやら去年からそういったサービスを開始したとか」  文也は黙る。どう考えてもおかしい。盲導犬になるには数年の訓練は必須。訓練無しの飼い犬が突然盲導犬になれるわけがない。それに、そんなサービスも聞いたことがない。有り得ない話だということは文也じゃなくとも分かる。だが、この老人が嘘を言っているようにも見えない。  じっと文也はラブラドールを見る。文也の視線に気付いたラブラドールはギクリと身体を強張らせ、若干気まずそうにしている。     
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