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「お邪魔します」
「ああ、来たか」
老人は、爽やかな声のする方に顔を向ける。
「牛乳が切れてしまってね。久しぶりに蘭丸と歩いた」
部屋に入ってきた黒髪の青年は、テーブルに置いてあった買い物袋を取り台所へ向かう。
「左様でしたか。すみません、まだ足りると思って……。昨日、買ってくればよかったですね」
「いや、いいんだ。それに、君以外の若者とも久々に話すことが出来た」
顔のシワを深くし楽しそうに話す老人に、青年は優しく微笑む。
「お昼は何に致しましょう」
「オムライス」
「ふふ、畏まりました。牛乳が沢山ありますし、夜はシチューに致しましょうか」
「ああ、いいね。それでいこう」
老人が咳き込み、青年は慌てて駆け寄り背を擦る。
「大丈夫ですか? お水をお持ちしますね」
老人は再び台所へ向かおうとする青年の手を掴む。青年は振り返り、そして目を見開く。老人の手には血。
「救急車を呼びます」
「いい。大丈夫」
「いけません」
「いいから」
「ご主人様……っ」
悲鳴のような声を出す青年に、老人は思わず笑う。
「また君は、そんな特殊な呼び方をする」
「救急車、呼びますからね」
去年から身体を壊していた。最近しんどそうなのも、この青年は気付いていた。
「大丈夫だ。大丈夫」
「ご主人様」
「だから、その呼び方どうにかならんのか」
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