第6話:知るべき痛み

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*** 「お邪魔します」 「ああ、来たか」  老人は、爽やかな声のする方に顔を向ける。 「牛乳が切れてしまってね。久しぶりに蘭丸と歩いた」  部屋に入ってきた黒髪の青年は、テーブルに置いてあった買い物袋を取り台所へ向かう。 「左様でしたか。すみません、まだ足りると思って……。昨日、買ってくればよかったですね」 「いや、いいんだ。それに、君以外の若者とも久々に話すことが出来た」  顔のシワを深くし楽しそうに話す老人に、青年は優しく微笑む。 「お昼は何に致しましょう」 「オムライス」 「ふふ、畏まりました。牛乳が沢山ありますし、夜はシチューに致しましょうか」 「ああ、いいね。それでいこう」  老人が咳き込み、青年は慌てて駆け寄り背を擦る。 「大丈夫ですか? お水をお持ちしますね」  老人は再び台所へ向かおうとする青年の手を掴む。青年は振り返り、そして目を見開く。老人の手には血。 「救急車を呼びます」 「いい。大丈夫」 「いけません」 「いいから」 「ご主人様……っ」  悲鳴のような声を出す青年に、老人は思わず笑う。 「また君は、そんな特殊な呼び方をする」 「救急車、呼びますからね」  去年から身体を壊していた。最近しんどそうなのも、この青年は気付いていた。 「大丈夫だ。大丈夫」 「ご主人様」 「だから、その呼び方どうにかならんのか」
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