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「あー……そうそう、歳の離れた飲み友達ってね」
「そうかい……んー……残念だったね。ここのじいさん、一週間前に死んだよ」
「へ?」
ポカンとする文也の顔を見て、やだその顔可愛い! と頬を染める女。
「嘘……蘭……いや、ラブラドールは?」
「ああ、酷い話でね。じいさんには息子がいるんだけどさ、うんと仲悪くて。葬式の後じいさんの愛犬だって知ってあの犬追い出してさぁ。大人しくて良い犬だったのに、可哀想にねぇ。嫁もだいぶ前に亡くなってるし、あの犬の面倒見る人間はどこにもいなかったしね。あたしら近所の人間も、犬の面倒見る余裕ないし」
なんという無情。誰一人としてあのラブラドールに手を差し伸べる者はいなかったのだ。飼えないにしても、やりようはあった。ただ、面倒だったのだ。だから誰一人としてあのラブラドールの為に動こうとした人間はいなかったのだ。主人を亡くしただけではなく、居場所を奪われたラブラドールに憐れみの目を向けただけだった。
「全くねぇ。あの子みたいな子が息子だったら良かったのに」
「あの子?」
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