第6話:知るべき痛み

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***  文也はマンションの駐車場に車を停め、疲れた顔で降りる。ドアを閉めた後鍵がしまったか一度確認し、マンションのエントランスに向かう。高級マンションだ。鍵もカードキーである。そのマンションの最上階に住んでいる文也は、重たい足取りでエレベーターに乗り込んだ。現在の時刻、午前二時近くだ。テレビの収録が大幅に押したのだ。収録中に元政治家コメンテーターと辛口ベテラン歌手が大喧嘩。殴り合いに発展しそうになったほど激しいものだった。 (何が駄目だった。俺がもっとあっちに話を振れば……いや、それじゃああの人だけの番組になる。ただでさえでしゃばってた。視聴者だってあれを見て面白いだなんて思うはずがない。多少のトラブルは喜ばれるけど、ただのでしゃばりは見てて気持ちのいいもんじゃない。俺はどう回すのがベストだったのか。ああ、あのお馬鹿キャラに振るのも有りだったな。あークソ)  女好きだが自分の仕事にプライドを持っているのが文也。意外と仕事に関して真面目なのがこの男だ。  文也はうんざりしながらエレベーターを出る。そして、思わず大声を出しそうになった口を押さえた。  自分の部屋の前に、蘭丸がいたのだ。 「おまっ、なんで。……え」  文也は気付いた。  蘭丸の身体は切り傷だらけ。そして、不自然に左前足を引き摺っている。  文也は玄関の鍵を開け、扉を開いた。そして蘭丸に目を向ける。 「歩けるか。入れ」  蘭丸はピスピス鼻を鳴らし、足を引きずりながら部屋に入る。 「……どういうこと? お前、脱走してきたのか?」  蘭丸は文也の言葉に、クゥンと鳴く。文也は蘭丸が脱走し、事故にでもあったのかと考えた。 「……待ってろ。二十四時間対応してる動物病院探してやる」
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