第6話:知るべき痛み

22/45
前へ
/1873ページ
次へ
***  文也が蘭丸を連れてやってきたのは、ジュンも世話になった坂本動物病院だ。時間外でも対応可と、携帯電話番号が記載されていたのだ。こんな時間に悪いなと思いながらも電話をかければ、思いっきり寝起きの声で梅吉が電話に出たのだった。もう二時半過ぎにも関わらず、起こされたにも関わらず梅吉は笑顔で迎える。額には冷えピタ。眠気覚ましなのかもしれない。 「あら、芸能人」 「こんな時間にすみません」 「いいのいいの。で、患者は……」  ヘラヘラしていた梅吉だったが、蘭丸の怪我を見て表情を険しくする。 「この怪我は……どうしたの」 「よく分かんないです。事故かなって」 「事故ねぇ。……事故ではこんな傷は付かないかなー」 「じゃあ、事故じゃないんですか?」 「うん。多分虐待だね」  文也は目を見開く。 「この傷は明らかに刃物で切られた傷だもの。今からレントゲン撮るけどさ、足もトンカチかなんかで思いきりやられたんだろうね」  痛かったねぇ。怖かったでしょうと梅吉が優しく蘭丸を撫でる。 「……そんな。凄く、優しそうな人だったのに」 「この子の飼い主に心当たりでも?」  文也は頷く。想像もしていなかった事実に、文也の声が震えた。     
/1873ページ

最初のコメントを投稿しよう!

855人が本棚に入れています
本棚に追加