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「男にされて堪るか。それなら俺は八十代のおばあちゃんを選ぶ。あとご主人様言うな」
「そうだご主人様! プリンを作ってみたので是非味見を!」
頑なにご主人様呼びを止めようとしない蘭丸に、文也は眉を寄せる。
蘭丸は文也に拘っている。理由は分からない。あの時手を差し伸べてくれたのが文也一人だったからか、あるいは元の主人と出身地が同じだからか。どちらにせよ文也にしてみれば困る。これでは女を連れ込めない。ましてや女の前で「ご主人様」なんて呼ばれた日には……。考えただけで文也はゾッとした。
(やばい。ほんとに早くどうにかしねぇとコイツ)
ぶっちゃけ、助かってはいる。帰ったら美味しいご飯が用意されているし、掃除だって洗濯だってしてある。だが「有難う」とは言わない。それで更に気合いを入れられても厄介だ。
良い奴だとは思う。それに、健気な奴だとも。蘭丸は本当に何も見返りを求めていないのだ。有難うの一言すら要らない。ただただ自分が主人と呼ぶ人間に尽くし、笑顔を向けるだけだ。
だからこそ、もっと相応しい場所が、主人がこの男には必要だと文也は思う。生活は不規則、飲み歩くことが好き。そんな自分の元にいるより、ちゃんと蘭丸自身を見て大事にしてくれる人の元にいた方が幸せなのは間違いない。
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