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文也はすぐに蘭丸を坂本動物病院に連れて行った。なんでまた刃物傷? と疑いの眼差しを向けられてしまった文也だったが、自分が殺されかけたのを助けてくれたという説明と、尻尾を振りながら文也に擦り寄る蘭丸のおかげでなんとか誤解は解けた。
そして帰宅。
ずっとだんまりの文也に気まずそうに蘭丸は正座をしている。
「えっと……まだ、お怒りですか?ご主人様……」
「……」
「あうぅ……」
答えてくれない文也に、蘭丸は項垂れる。
「おい」
「は、はい! わっ」
何かを投げられ、蘭丸は慌ててキャッチする。大福だ。
「ご主人様、これは?」
「大福。見りゃ分かんだろ」
「あ、有難うございます!」
「あー……」
文也は蘭丸に背を向け、ガシガシと自分の頭を掻いた。
「その、あの……」
「ご主人様?」
「この前は……怒鳴って悪かった。それと……今日は、助かった。……有難う、蘭丸」
「ふ、ふぉおおおお……っ」
「な、なんだよ! こっち見んな馬鹿!」
蘭丸は目をキラキラ輝かせ、震えている。
初めて有難うと言われた。初めて名前を呼ばれた。
「ご、ご主人様ぁーっ」
「うるせ! 早く飯!」
「はい、ただいま! 今日はエビチリとかに玉、それとデザートは杏仁豆腐でございます!」
「ん」
「ご主人様ぁーっ」
「だからなんだよ!」
その日の夜、蘭丸は良かったなと優しく自分の頭を撫でる老人の夢を見た。
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