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瑠璃の家には、珍しい客がいた。その客は、気まずそうに胡座をかいて黙っている。瑠璃はその人物の前に、秘密兵器であるDVDを差し出した。
「えっと、見る? 魔女宅。その……春斗さんから預かって。テツさん、これ好きだって」
「く……っ」
そう、珍しい客とはテツである。テツは差し出されたDVDに、カッと顔を赤くして俯く。
「ジジが……」
「う、うん」
「じ、じ、ジジが……可愛すぎた……」
そう言いながら両手で顔を覆ってしまうテツを目の前にして、瑠璃は反応に困っていた。テツはどうやらジブリが好きらしい。その中でも魔女の宅急便が大のお気に入り。 春斗曰く、一日中見ている時もあるんだとか。顔からして任侠映画を好みそうなイメージなのに、まさかのジブリ。春斗とは違った意味でギャップが凄い。
「えっと、いいと思う。俺もトトロ好きだから」
「とろろ!? あれ、美味しいけど口痒くなるよね!」
「トトロ!」
何故テツが此処にいるのか。実は春斗が修学旅行に行ってしまったのだ。行き先は沖縄。数日一人にするのもということで、春斗が帰ってくるまで此処でお泊りなのだ。
テツは他の犬と違いコミュニケーション能力が乏しい。そんなテツに瑠璃が困らないようにと、春斗は瑠璃にジブリのDVDを託したのだった。
「ねぇねぇテツ、寂しい?」
「さ、ささささ寂しくない」
「俺が瑠璃に置いて行かれたら、泣くよ」
「べ、別に俺は置いて行かれたわけじゃねぇぞっ」
言いつつも若干凹んでいるように見え、瑠璃は苦笑いを浮かべた。
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