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瑠璃はあの場から逃げ、そのまま商店街へ向かった。元々帰りに寄るつもりだった。通っている魚屋の年配男が先日「煮付けも持っていきな」とタッパーに入れて瑠璃に渡してくれたのだ。そのタッパーを返しにきた。
「おじちゃん」
「おー瑠璃ちゃん!」
「これ、どうも有難う。すっごい美味しかった」
「そりゃあ良かった。家内も喜ぶ。そうだ、今日は鯖が安いよ! 買っていくかい? おまけするよ!」
「鯖かぁ……どうしよっかなぁ」
瑠璃が魚を物色していれば、隣で奥様方の世間話が始まった。普段は気にも止めない瑠璃だが、この日は違う。
「聞いたぁ? 野良犬の話」
「知ってるわよ。だってうちのごみ捨て場荒らされたんだから。ほんとやになっちゃう」
「ほんと!? 通報したの!?」
「したわよ勿論! 早く捕まらないかしらね。来週孫が遊びに来るっていうのに、危ないったらありゃしないわよ」
「そうよねぇ」
バクバクと心音が激しく響く。野良犬とは。まさかと考え、瑠璃は首を横に振った。
「お、おじちゃん、鯖買うよ」
「毎度! おまけにもうひとつ付けとくよ!」
「有難う」
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